カズヤ ムーンライト

「ここか・・・・・・失礼する」


 木で作られたドアをノックしてから室内へと入る。
返事は無く、 室内には窓際にベットが一つありその上にその子は寝ていた。
青白かった頬は血の気を取り戻し、 顔色も良くなっていた。
これなら安心だろう。


「・・・・・・ふぅ、 これなら平気か・・・・・・」


 傍にある椅子に座り、 かぶったままであったヘルムを外す。
両方の部分に簡単な羽飾りが付けられているのだが、 それが中々気に入っている。
彼が気がつくまでまだ時間があるだろうか・・・・・・
まぁ、 それまで待っているのも別に良いだろう。
今日する事は他にはないのだから・・・・・・




「んっ・・・・・・?」


 僕は一体どうなったんだろうか・・・・・・
確か聖騎士の人に会って、 さまよう狼の群れに襲われて・・・・・・
それから・・・・・・


「目が覚めたか?」


 声のする方を向くと、 窓から差し込む光に反射した朱色の髪がキラキラと風に揺られて輝いているのが目に入ってきた。
柔らかい手が額に当てられ、 聖騎士の人はもう片方の手を自分の額に当てている。
どうやら熱を測っているようであった。


「ふむ、 平熱だな・・・・・・これなら大丈夫だろう」
「わざわざ・・・・・・運んでくれたのですか?」
「ああ、 別にたいした事では無い」


 あっけからんと言っているが、 あの場所からプロンテラまでは距離が少なからずあった。
それを人一人抱えて来るのは・・・・・・正直辛い事だと思う。


「気にするな、 私の責任でもあった」


 そう言ってクシャクシャと頭を撫でて来る。
そんなにも僕の表情は顔に出ているのだろうか?


「素直だな、 好感が持てる」


 考えている事が全部知られているみたいで少し怖かった。
だが、 少なくとも目の前の聖騎士は命を助けてくれたのだ。
危害を加えてくるような相手では無いだろうと感じていた。


「紹介が遅れた・・・・・・本来なら初めて会った時にするべきことだったな。
非礼を詫びよう」
「あ、 い、 いえ・・・・・・僕も気がつきませんでしたから・・・・・・」
「感謝する」


 頭を下げている聖騎士に、 慌てて頭を上げて貰う様にする。
僕は一応貴族の出とはいえ、 まだまだ半人前のノービスだ。
聖騎士の様な立派な仕事をしている訳でもないのに、 そんな人に頭を下げられたら少し恐縮してしまう。


「では改めて、 私はリヴァル トレイター、 見ての通り聖騎士だ」
「僕はカズヤです。 カズヤ ムーンライト」
「いい名だ」


 リヴァルさんはいい名だと言ってくれたけど・・・・・・本当だろうか?
僕にはありきたりな名前だと思ったけど・・・・・・


「真実だ、 カズヤ・・・・・・良い名前では無いか」
「そうでしょうか・・・・・・リヴァルさんの方が綺麗だと思いますけど」
「褒め言葉として受け取っておく。
・・・・・・カズヤ、 これも何かの縁だ。
転職するまでは助言しよう」
「良いのですか? 何か仕事とか・・・・・・」
「何もする事は無い、 嫌ならば別に良いのだが――」
「い、 いえ! 是非願いします!!」


 少し残念そうな、 そんな表情を浮かべたリヴァルさんに、 僕は慌ててお願いした。


「そうか、 ならば早速行こう」
「あ、 はい!」


 こうして不思議な聖騎士、 リヴァルさんと一緒に、 しばらく修行する事になりました。