白銀の天使

「失礼!!」


 プロンテラ中央通り、 その人混みの真っ只中を豪快に走り抜ける。
当然ぶつかりそうになる人も居るが、 そんな事に構って入られない。
こちらは人の命が懸かっているかも知れないのだ。
ぶつかるギリギリまで速度を上げ、 横にステップを踏みながら走り続ける。


「シルヴァニアさん!!」
「あれ? リヴァルさん、 こんにちは・・・・・・と、 挨拶をしている暇ではないみたいですね」


リリィ シルヴァニア。
大聖堂所属のプリースト、 プロンテラで医者をしている。
狩りなどにも行く事はあるが、 ほぼ毎日診療所に居ると言っても過言では無い。
大聖堂から特別に許可されたらしく、 内科、 外科、 あとはカウンセラーもしている。
熱心で患者一人一人丁寧に診察、 治療、 受け答えをしていく姿から、 プロンテラの老人達からは「白銀の天使」、 等と言う名称がついてしまったりしている。


「診察台に寝かせて、 後は私が」
「はい!」


 ゆっくりと彼の体を診療台に寝かせる。
未だに意識は目覚めていなく、 リリィに取ってその状態のまま死んでしまうのではないかと思っていた。


「脈拍・・・・・・少し弱いけど正常値ね、 熱は・・・・・・・無し、 瞳孔正常。 体に目立った外傷も無し・・・・・・」


 ハラハラして待合室に戻り、待っているリヴァルを他所にリりィはテキパキと診察を開始している。
焦る気持ちを抑え様と努力している様だが、 座っているリヴァルの右手はカツカツと左手の籠手を叩き続けていた。


「んー・・・・・・ただ気を失っているだけですね。 大丈夫、 あと数分もすれば目が覚めます」
「真ですか!?」
「ま・・・・・・真ですからそんな殺気の篭った気迫で迫らないで下さい」


 診察を開始してから数分後、 リヴァルに状況を告げた途端これであった。
剣を腰に差したまま、 いきなり迫ってきたら誰だって怖い。


「す・・・・・・すみません・・・・・・少し動揺していました」
「気持ちは分らない訳でも無いですから、 お気にせず・・・・・・それよりも、 貴女の傷も治療しましょう」
「えっ? あ、 この程度でしたら・・・・・・・」
「駄目ですよ、 顔は乙女の命なんですから」


 いつの間にか出来ていた引っかき傷を消毒し、 その場にガーゼを貼り付ける。
職業柄こうした傷が付く事は多いが、 リヴァルは別になんとも思わなかった。


「ありがとうございます」
「もう少し自分を大切にした方が良いですよ」
「・・・・・・努力します」


 どうもこの人には敵わないと思っていた。
無論力では自分の方が上だろうが、 知識、 教養、 精神的にリリィの方が上だと認識していた。
自分より2歳年下なのに、 診療所一つを任されているのは伊達じゃない。


「それから・・・・・・彼、 目覚めました。 ただ大事を取ってまだ寝かせてあります」
「真ですか?」
「はい、 病室の2番です。 面会謝絶などではない為自由に行って上げて下さい」
「感謝します!」


 一瞬走ろうとしたのだが、 ここが診療所であり今から行く場所が病室である事に気付き、 走らないがなるべく急ぐという難しい事をしつつリヴァルは病室へと向った。