さまよう狼

『グルルルルル・・・・・・』


 赤く血走った瞳が睨み付けている、 それも一体や二体では無い。
かなりの集団なのだろうか、 獣独特のうなり声が大気を震わし僕の耳に響いた。


「・・・・・・1、 2、 3・・・・・・10匹か」


肩に立て掛けていた剣を右手に、 盾を左手に構える。
相手はウルフと、 それを統率するさまよう狼と呼ばれる中級規模の魔物だ。
本来ならこんな場所に住み着くこと等無いのだが、 誰かが古木の枝でも折ったのか・・・・・・
人為的に呼び出された彼等には申し訳ないが、 プロンテラ周辺を危険地帯にさせる訳にも行かない。
退治する以外手段が無いのだ。


「あ・・・・・・あのっ・・・・・・」
「離れるな」


 その言葉を聞いた時、 一斉に魔物の群れは襲い掛かってきた。



(統率は少なくとも取れているが・・・・・・一体一体は弱い、 まだどうにでもなるか・・・・・・だが、 この子をどうするべきか・・・・・・)


 襲い掛かってくるウルフを切り裂きながら考える。
無論リーダー格であるさまよう狼を切り捨ててしまえば、 ウルフ達は一目散に逃げていくだろう。
だが、 隣で怯えているノービスを放置してさまよう狼に向えば、 彼は間違いなくウルフの餌食となるだろう。


(ならばこうするしか無いか・・・・・・)


 ノービスの子を護りながらさまよう狼を倒す。
方法は決定した、 後は実行するだけだ。


「失礼」



(ど・・・・・・どうすれば!? どうすれば!!?)


極度の混乱状態・・・・・・というのだろうか、 彼の頭を支配しているのはどうすれば良い、 と言う疑問であった。
無論自分の身を護らなければならないのだが、 ウルフ相手にノービス・・・・・・・しかも成り立ての子に勝つ事など出来ない。
今はまだ聖騎士の剣が襲い掛かるウルフ達を切り裂き、 その爪が自分に食い込む事は無い。
だが、 この状況が長く続けば疲労が溜まるだろうし、 自分の様な荷物を抱えているこちらの方が不利なのは明白であった。
しかしだからと言って自分がどうにか出来る訳でもない、 でも何かをしなくてはいけないという思考の無限ループに陥ってしまったのだった。


「失礼」


 そう聞こえた瞬間だったのだろうか、 何かに抱きしめられた感触があったのは・・・・・・
盾を僕の背に、 つまり左手で自分の方へと押し付けながら剣を持っていたはずの右手で頭を抑えている。


「怖がるな、 安心しろ・・・・・・大丈夫だ」


 そう端的に告げる、 抱きしめたのは体温が人の心を安心させるからなのだ。
だが、 そんな事を知っている訳も無いのだが、 少なくとも自分は落ち着きを取り戻せている気がした。


「聖なる光よ、 我が意思に従い敵を滅ぼせ・・・・・・グランドクロス!!」


 魔術の詠唱が終了した途端、 まぶしい輝きが視界を覆った。
グランドクロス、 聖騎士だけが使える攻撃魔術だ。
しゃがみこんだ聖騎士に留めを刺そうと、 近くにまで近づいていたさまよう狼は、 その光りによって塵と消えた・・・・・・



「平気か?」


 声をかけてみるが返事が無い。
一体どうしたのだろうか、 と覗き込もうとしたその時、 彼の体は私に支えられていたのだろう。
ぐらり、 と大きくよろめき力なく大地に倒れこんでしまう。


「!! おいっ!」


 揺さぶってみるが返事が無い。
少し青ざめたような表情で心なしか生気が無い。


「くっ・・・・・・!!」


 彼の体を抱え走り出す。
応急処置なら出来るが自分はあくまで騎士、 命に関わるような重病だとしたら手に負えない。
一刻も早く医者に見せなければ・・・・・・!!