ユナ ミストレル

『ギルド募集 LV88プリースト GV好きではありません』


 ギルドを飛び出すように抜けてから2日後、 私はプロンテラ南の平原・・・・・・
通称ギルド広場でチャットを立てていました。
ギルドを放浪する癖があるのか、 突発的にギルドを抜け出して一人でダンジョンへと赴いてしまうときがあります。
しかしそれが一ヶ月に何回も続く事は珍しい事でした。
原因は分かっています、 でもそれに対処する方法はありませんでした。


(・・・・・・やはりイライラする事は抑えられませんか・・・・・・)


 相方が浮気をしている。 しかも3回・・・・・・
1回目から私は彼の話を聞かなくなっていたのかも知れません。
彼が何と言おうとも、 私は心の奥底では全く信じていなかったのです。
その事をずっと思い続け、 心がモヤモヤとしていて、
自分の心の闇が嫌いになっていました。
複雑怪奇、 どんなに言葉で許すと言っても、 頭では理解していても、
心は受け入れてはくれませんでした・・・・・・・
プリースト、 それも極支援型である私は、 人の命を預かる身です。
その責務があるのですから、 どんな理由であれ全力を尽くさなければなりません。
でも、 姿を見るたびにざわめき出す心と、 制御できない思考が私の行動を鈍らせていました。
そのイライラを押さえつけてギルドに所属していたのですが、 何かの拍子に押さえが利かなくなり、
突発的にギルドを脱退、 マスターにだけ後日連絡する・・・・・・そんな事ばかり繰り返していました。


(・・・・・・書き込みどのくらいあるでしょうか・・・・・・)


 チャットを立てた次の日の夕方、
書き込みを確認する為に残された文章から全てのギルドの説明を読み上げていきます。
文章を読み上げ、 私は何となくだがその人の事とギルドを掴んでいく。
新しいギルドでは、 また飛び出した時に迷惑であろうし、
GVギルドは私がプリーストだから必要なのだろう。
勿論そう考えていないギルドも多いし、 私の偏見だという事も承知している。
それでも、 私は・・・・・・そう考えてしまう。


「ここか・・・・・・ここかな」


 何となく掴み取ったイメージを元に、 体験してみたいギルドを絞る。
2つほどに絞り込んだ所で、 たまり場のある場所へと向ってみました。
幸い両方共プロンテラがたまり場であり、 移動にはそれほど時間がかかりませんでした。


(ここかな・・・・・・☆EINHERJAR☆、 うん。 間違いない)

 
 プロンテラ東門付近、 たまり場として紹介された場所には何人かのギルド員と思われる方々が居ました。
しかし声を掛けようとしても、 私は素直にそれが口に出せなかったのです。
何に怯えているのか、 何が怖いのか・・・・・・それは良く分かりませんでした。
ただ、 自分から声を掛けられなかったのです。


(・・・・・・とりあえず座ろう)


 ずっと立ちながらそちらを凝視していては、 変に誤解されるかも知れないと思い、
少し道から外れた場所に座り、 カプラさんの方面を向いておく。
これなら、 ただの休憩だと思われるだろうし、 こちらから話しかけない限りは気づかれないと考えたからです。


(楽しそう・・・・・・かな、 うん。 楽しそうだと思う)


 ギルド員の会話を聞いていると、 そのギルドがどういったギルドなのかが見えてくる。
私が見たとき、 彼等はずっと楽しげに話していました。


 数時間たったのでしょうか、 私はいつの間にか眠っていたようで、 たまり場には誰も居ませんでした。
ここでも私は躊躇しました、 書き込んでくれたマスターにWISをするべきなのか、
はてまた、 まだ静観しているべきなのか・・・・・・
冷静に考えれば考えるほど、 考えが悪い方向へ悪い方向へと行っていました。


(・・・・・・明日にしようかな)


 そう弱い心が告げましたが、 もう一方で今日連絡しろ、 と頭が命令し続けました。
逃げた所で、 また明日声も掛けられずに同じ過ちを繰り返すだけだぞ・・・・・・と。


「・・・・・・やってみるしか無いですか・・・・・・」


 相手のマスターの名前は頭に入っている為、 WISをする事事態難しい事ではありません。
ただ、 たった一言告げるが私にはとても大きな壁となっていました。