特訓

「Mariaさんは話し方が硬すぎるのだと思いますよ」
「硬い・・・・・・?」
「そうですよ、 いくら騎士の方だからって言っても女性なんですから、
プライベートぐらいは柔らかい話し方が良いですって!」
「・・・・・・そうか?」
「そうですよ!!」


カフェテラスの席につくなり彼女はそう力説した。
ついでにMariaは自分の言動は、 騎士として当たり前だとしか思っていない。
そうでも無ければ自分の義姉に対して、 もう少し砕けた口調となるだろう。


「しかし・・・・・・私はどうすれば良いか分からない」
「それは承知ですよ、 だから私と話して練習しようって事何じゃないですか」
「そうか、 だがどうすれば良い?」
「Mariさんが話す事を私が訂正しますから、 その指示通りに話してみて下さい」
「分かった」


 どうでも良いが俺は本当にやる事が無い。
騎士団に帰ったとしてもやる事が無いから別に良いのだが、 暇なものは暇だ。
だからと言ってまかせっきりで帰る訳にも行かない。


「じゃあ始めますよ・・・・・・今日は天気がいいですね」
「日中は晴れるが夕方頃から曇り出してくるが雨は降らないだろう」
「・・・・・・いえ、 そう言った論議では無くてですね、 自分の思った事を言うんですよ」
「これが私の思ったことだが・・・・・・」
「んー・・・・・・アーサーちゃん、 ちょっと私と話して」
「俺が?・・・・・・なるほど、 見本か」
「そーそー、 ちょっとで良いからさ」
「分かったよ」


 暇だった俺には丁度良い事であった。


「今日は天気が良いね」
「そうだな、 こういう日は原っぱで昼寝でもしていたいものだ」
「体動かさないと鈍るよ? アーサーちゃんは怠ける事には全力だね」
「・・・・・・こら、 それどういう意味だ」
「昼寝でもしたいって言った時点でそうだと解釈できるけど?」
「だったらどー言えと」
「せめて散歩日和・・・・・・とかそういう事なら健康的じゃない」
「・・・・・・こんなもので良いか」
「十分よ、 とまぁこんなものですよ」


 気疲れした時点で俺から会話を打ち切る。
こいつとはあまり会話したくない理由のひとつが、 絶対に論争では勝てないからである。


「・・・・・・理解した、 なんとかしてみよう」
「では行きますよ・・・・・・今日は天気が良いですね」
「ああ、 こんな日は鍛錬するべきだな」
「・・・・・・何時もはどんな感じに鍛錬しているんですか?」
「騎士団にそういった場所があるのでな、 そこで槍で相手を倒す練習をしている。
日々練習し、 体に叩き込む事が戦いで自分の命を守る事にも繋がるだろう」
「・・・・・・アーサーちゃん」
「何だ?」


 小声で手招きをするクリスに耳を近づける。
言いたい事は分かっているが、 聞いてやらなければならないだろう。


「ちょっと荷が重くない?」
「・・・・・・だから頼んだ」
「これは一日両日で直るものじゃないでしょ・・・・・・」
「そうか・・・・・・・日々鍛錬、 これしか無いか」
「私そこまで暇じゃないわよ?」
「こっちだってそうだ・・・・・・なら一体どうすれば良いんだ」
「・・・・・・ならアーサーちゃんが話し相手になれば良いじゃない」
「はっ?」


 突然の提案に正直頭の理解が追いつかなかった。
頭が真っ白とまでは行かないものの、 考える能力を一瞬奪われていた。


「まぁアーサーちゃんじゃちょっと不安だけど仕方が無いか、
と、 言うわけでMariaさんはどうですか?」
「アーサー ルーンベルグと練習か・・・・・・
効率的な手段だろう、 同じ騎士団所属であるし、 プロンテラ所属だ」
「ならそれで良いじゃない」
「ちょ、 ちょっと待ってくれ! そんな勝手に決めないで・・・・・・」
「迷惑であるならば辞退するが・・・・・・」


 少しだけ声のトーンが落ち、 表情が曇る。
身近に居る人物でなければ分からない、 若干の変化であったが、 残念だと思っているのだろう。
手伝うと言った手前もあるが、 元から話してみたいと思っていたのだ。 渡りに船だろう。


「いや、 分かったよ・・・・・・俺でよければ付き合う。 何時でも遠慮なく言ってくれ」
「感謝する・・・・・・ありがとう、 アーサー ルーンベルグ


 こうして彼女と練習する事になったのだが、 一体何時の日に普通に話せるようになるかは正直分からない。
ただ努力を怠る様な人では無いから、 その内きっと、 普通に話してくれる日が来るのだろう。