何が足りないのか?

「アーサー ルーンベルグ
「Maria? 一体どうしたんだ・・・・・・・?」


 突然声をかけられ、 正直俺は戸惑った。
Mariaから声をかけてくる事など無いに等しいからだ。
あったとしても任務の事ばかりであるし、 簡潔に終わらせている。


「ちょっと聞きたい事がある」
「何だ? 俺が答えられる事なら答えるが・・・・・・」
「その・・・・・・えっと・・・・・・」


 Mariaにしては珍しく歯切れが悪い。
彼女は装飾などいれずに率直に意見を言うタイプなのだが、 今回は言葉を選んでいるようだった。


「私は無愛想か?」
「・・・・・・はっ?」


 一瞬その言葉が理解できなかった。
あまりにもMariaの口からでる言葉とは思えなかったからだ。


「な、 何度も言わせるな。 私は無愛想かと聞いた」
「・・・・・・それはそうだと思うが・・・・・・」
「・・・・・・そうか、 やはりそうなのか・・・・・・」


 いや、 と言うより今の今まで気づかなかったのか?
考え込む彼女を見ながら、 俺は出てきた疑問に即座に自答した。
多分気づいていなかったんだろうなぁ・・・・・・と


「アーサー ルーンベルグ
「・・・・・・なんだ?」
「どうすれば私は無愛想じゃなくなると思う?」
「・・・・・・そんな事聞かれてもなぁ・・・・・・」


 生憎俺だってそんな事考えた事は無い。
無愛想だろうが愛想が良かろうがそれはその当人の性格みたいなものだと思っているからだ。
だからと言ってそれをMariaに告げた所で彼女は納得しないだろう。
大体なんでそんな難しい『乙女心』 のような事を俺に聞くのだろうか。


「大体なんで俺に聞くんだ?」
「姉さんは優しいし、 家族の様なものだから客観的な意見は言えないと思う。
姉さんやKuriaを除いて一番身近だろう存在だから」
「・・・・・・それってつまり頼っているって事か?」
「そうだ」


 何時も通り素っ気無い返事だが、 俺は嬉しかった。
頼ってくれているという事は、 別に嫌っているわけではないという事だろう。
声を掛けても一言二言しか話さず、 突き放すような話し方だから嫌われているのかとも思ったが、
ただ単に話す事に慣れていないだけなのかも知れない。


「・・・・・・分かった、 俺も不慣れだが手伝うよ」
「感謝する」
「そうだな・・・・・・アルデバランまで行こう」
「? 何故だ」
「知り合いが居るんだよ、 こういう方面に強そうな奴がな」


 Mariaは未だに疑問符を浮かべていたが、 俺が歩き始めると大人しくついてくるようだった。
カプラサービスで一旦魔法都市ゲフェンまで運んでもらい、 そこから国境都市アルデバランに送ってもらう。


国境都市『アルデバラン
都市の中央部に聳え立つ時計塔が有名な都市で、 時計塔内部はダンジョンとと化し魔物達が住み着いている。
なんでも、 過去の偉人がこの世界の時間を管理するために作られた・・・・・・という伝説まである。


「こんな場所に居るのか?」
「ちょっと待って・・・・・・えっと・・・・あ、 居た居た・・・・・・
おーい、 クリス ライトメール!!」
「ん? ああ、 アーサーちゃん」


 アーサーちゃん、 と俺を呼ぶ彼女はクリス ライトメール
アルデバラン時計塔前で露店をしているアルケミストで、 何が必要なのか冒険者に聞いていたりする。
そのお礼としてHSPや白ポーションなどを情報料として渡していたりする。
あまり商売っ気が無いのか、 それともただ何も考えていないのか、 彼女の店は中々安い。
所属しているギルドが何かの祭りをやると、 便乗して彼女も大安売りをしていたりする。


「そのちゃんづけいい加減に止めろ」
「良いじゃない、 減るものじゃないんだし」
「俺の精神力が削り取られて減るんだよ」
「どうでも良いけど、 そんな他愛の無い話しに来た訳?」
「・・・・・・違う」


 どうも幼馴染のこいつには頭が上がらない。
一枚上手・・・・・・・と言うのだろうか、 主導権を握られっぱなしだ。


「実は頼みがある」
「製造? それとも売り買いの部類?」
「いや、 彼女と話してもらいたい」
「ん? 後ろの騎士さんと?」


 おい、 俺も騎士だぞ一応・・・・・・その対応の違いは何だ・・・・・・
心の中で突っ込みたい衝動を押さえ込み、 何とか立ち直る。
ここで突っ込んだところで余計な時間がかかるだけだ。


「そうだ、 名前はMaria Serve」
「宜しく」
「はいはい宜しくー・・・・・・で、 何で話して欲しいわけ?」
「商人ってものは色々な人と話すだろう? 彼女は見ての通り無愛想な事を気にかけているからな。
だからクリスなら何とかなるんじゃないかと思ってな」
「ふーん・・・・・・まぁ、 やってみようか」


 パッパと手際よく露店を片付けていく彼女の動作は、 実に手馴れたものであった。
後ろで引いているカートに商品を入れるまで数分とかからなかっただろう。


「さ、 ならちょっとお茶しようか」
「何故?」
「Mariaさん、 おしゃべりってものは何かを楽しみながらやるものよ。
お茶でもお菓子でも何でも良いから食べながらすると、 結構会話は弾むものよ」
「そうなのか・・・・・・理解した」

 
 コクッ、 と頷くとクリスの後を追いかけるように付き従う。
彼女が先頭を歩く事は、 ダンジョン内部か危険地帯以外滅多に無い。
クリスは先を歩きながら何かメモ書きしているようだったが、
最後尾の俺には何を書いているのか分からない。


さて・・・・・・どうなるのやら・・・・・・