ゲフェンのとある書庫で

 この世界の大戦は闇の部族との戦いが大半を占めている。
それはプロンテラという王国が出来る前から、 神々と闇の部族は戦い続けて・・・・・・
神々が戦うその場に、 神々によって作り出された人も共に戦ったと言われて・・・・・・
魔術とはその戦いにおいて、 神々より授けられた力で・・・・・・


(・・・・・・どれもこれも、 同じようなものばかりか・・・・・・)


 ミニグラスの中央を指で押し、 かけ直した所で本から目を上げる。
彼が今居る場所はゲフェンの書庫、 過去の戦争や戦いについての項目が書かれている書物のエリアだった。
彼は昔戦争で使われていた魔術で、 未だに復活できていない物を調べているのだが、
どの書物にも魔術が使われていた、 という漠然とした物しか書かれて居なかった。


「アルグラム、 アルグラム フェンリは居るか?」
「んっ・・・・・・はい、 ここに居ますが」


 書庫で声を出す人も少なければ、 自分のように一箇所に本を溜めている奴も居ない。
私を探している人は容易にここを見つけられるだろう。


「おお、 そこだったか・・・・・・アルグラム、 実は頼みがある」
「お断りします、 色々と忙しいので」
「頼みも聞かずに即答とはつれない奴だな・・・・・・」


 ゲフェン魔術協会の協会員が困ったようにポリポリと頬をかく。


「せめて用件を聞いてから断れよ」
「時間の無駄だと思いますからお答えしました」
「条件付で用事を頼みたい、 ここまで譲歩してやるが?」
「条件次第です」
「ふむ・・・・・・ここの持ち出し禁止の本1冊を自宅に持ち出す事を許可しよう」
「・・・・・・用件次第でお受けします」


 ゲフェンの書庫には、 過去の戦いなどについての書物が多い。
それ以外にも、 禁断の魔術について書かれた書物もあるため、
持ち出し禁止の本もいくつか存在している。
これを自宅でゆっくりと読めるのだったら、 ある程度の用事なら割に合うと思ったからだ。


「なに、 簡単な事だ。 ユナ・ミスティ・ローレック殿にこれを渡して頂きたい」
「中身は何ですか?」


 簡単に包装された小包が渡される。
重さからして液体などの類ではなさそうだ。


「頼まれていた書物だ、 前のグラストヘイム大戦を絵本にしたものでな。
子供達に読み聞かせる為に我々に頼んでいたのだ」
「はぁ・・・・・・ならわざわざ私で無くても誰か別の人でも出来るのでは?」
「あいにく魔術協会の人間は出払っていてな、 頼まれた日数が今日であるから、
どうしても届けなければならない。 それで唯一暇だった君に頼むのだよ」
「・・・・・・分かりました、 持って行きますよ」
「頼んだぞ」


 書庫の本を片付け、 プロンテラへとカプラサービスで転送して貰う。
カプラサービスは基本的に3つの事が出来る。
1つ 倉庫を利用して収集品を預けたりする事。
2つ 傷つき倒れた時、 救助してくれる事。
3つ 遠くの都市まで空間転移してくれる事だ。


「さて、 大聖堂だったな」


 首都プロンテラ、 ルーンミッドガルドで一番賑やかな場所。
その分人も多ければ露店だって多い。
その人波にに逆らわない様に大聖堂まで歩いていく。


「・・・・・・帰りに露店でも少し見てみるか」


 ゲフェンにもある程度の露店市場はあるのだが、 プロンテラに比べてしまうと中身が違う。
ゲフェンにある露店の大半は回復財等の消耗品ばかりだからだ。
首都などあまり来ないのだから、 この機会に見ておくのも良いだろう。



「わざわざありがとうございます、 人手が足りないのでしたら言って下されば、
私が受け取りに行きましたのに・・・・・・申し訳ありません」
「いえ、 私は暇だったので御気になさらず」


 大聖堂中央礼拝場、 彼女は中央に居た。
私が来た事に気がついたのだろうか、 読んでいた本から目を上げ、 柔らかい笑みを浮かべる。
ゲフェンから持ってきた小箱を渡した時、 少し沈んだ表情をしていたからか、
私にしては珍しく慰めの声をかけていた。


「あ、 お礼といっては何ですが・・・・・・ちょっと待っていて下さいね」


 そういい残し、 彼女は小走りに礼拝場より出て行く。
数分後、 小さい弁当箱のようなものを持って戻ってきた。


「あの、 これ昨日作った肉じゃがです。 宜しければどうぞ」
「あ、 あぁ・・・・・・ありがとうございます」


 渡された弁当箱を貰い、 大聖堂を後にする。
彼女は出口まで見送りに来て、 私の姿が見えなくなるまで手を振っていた。



「・・・・・・中々美味だな」


夜、 自宅で食事の時に貰った肉じゃがを食べてみる。
味は薄すぎず濃すぎず、 ジャガイモも箸で簡単に切り取れる硬さとなっている。


「まぁ、 偶にはこんな日も良い」


 書物を読むだけの毎日でもつまらなくは無い。
だが偶にはこういった日があっても良いと思う。


 そんなゲフェンの夜。


続く