プロンテラ騎士団

 プロンテラ騎士団は昔は色々と忙しかったが、 今ではほとんどやる事が無く平和である。
プロンテラの警備は警備員が各門に配置されているし、 魔物達の侵攻がある訳でもない。
やる事といえば訓練の他、 冒険者に混ざってダンジョンへ向かうくらいだ。


「Maria」
「アーサー ルーンベルグ、 何か用?」
「あ、 いや・・・・・・・ただ会ったからおはようとだけ・・・・・・」
「おはよう」
「あ、 あぁ・・・・・・おはよう」


 そう告げるとMariaは木で作られた人形(アシュラム君40号)に、 槍を突き刺す練習に戻ってしまう。
これ以上何かを話そうとした所で、 俺にそんな話題がある訳でもなくその場を離れる。


「よっ、 アーサー。 相変わらずMariaにラブコールか?」
「ばっ、 ちゃかすな。 ヴィスベル」
「あはははっ、 真っ赤になってたら説得力ねーぞ?」
「煩いっ!」


 少し歩いた場所にある休憩場で同僚の騎士、 ヴィスベルを殴り飛ばし黙らせた後向いの席へと座る。
何だかんだ言っているが、 こいつは腐れ縁の仲間だ。


「あいつに話しかけても無駄だろ、 現にお前3分以上話せた事あるのか?」
「うっ・・・・・・いや、 無いが・・・・・・」
「そう言うこったな。 何ならかけるか? お前がMariaと普通に話せるかどうか」
「アーサーが・・・・・・ですか・・・・・・うーん、 難しい所ですねぇ」
「こいつが? 無理だろぉ・・・・・・」
「おいっ・・・・・・プリーストのシュルツは良いとしてなんでローグのバステッドまで居る?
捕まりたいのかお前」


 いつの間にか会話に割り込んできた二人組みのうち、
片方はプリーストであり騎士団に居ても不思議じゃないが、
ローグ(ならず者)が居るのははっきり言って不味い。


「硬い事言うなって、 何なら酒場に場所移すか」
「それは良いですね、 丁度良く昼食時間でしょうし」
「おーし、 そうするか」
「お、おい、 勝手に話を進めるなぁ!」


 3対1で引きずられるように騎士団詰め所から出て行く4人組。
騎士団員にとっては、 その光景はとても見慣れたものであった。


「・・・・・・で、 何なんだよ一体・・・・・・」


 プロンテラの酒場、 いきなりビールやらワインやらを頼み出す3人に問いかける。
騎士団から少し離れているが、 仕事帰りの一杯はここで飲むのが騎士団員の定番だった。


「ん、 おお。 うっかり本題を忘れていた」
「いやー・・・・・・ついついお酒に気を取られてしまいましたよ」
「酒って魔性だよなぁ・・・・・・」


 ・・・・・・ こいつらぶちのめして帰っちゃ駄目かな?
その怒りのオーラを感じたのか、 咄嗟に話題をヴィスベルが摩り替える。


「あ、 そうそう。 お前なんでMariaに話しかけるんだ? 騎士団に女の子なんて沢山居るだろうが」
「そういえばそうですね、 君ぐらいの容姿でしたらまぁまぁですしね」
「よりにもよって堅物選ぶお前の神経何処かおかしいんじゃないか? 一度お医者様に見てもらえ」
「・・・・・・・す、 好き勝手言いやがって・・・・・・」


 俺自身なんでMariaに話しかけるのか良く分からない。
ただ何となく話してみたい、 それだけだった。


「ったく・・・・・・・ただ話してみたいだけだよ」
「何だ? お前寡黙なほうが好きなのか?」
「違う、 好きとか嫌いとか関係無しで話してみたいだけだ」
「話したいだけねぇ・・・・・・あのお譲ちゃんが何の話をするか聞いてはみたいがねぇ」
「で、 俺の理由が分かったなら気は済んだろ?」


 うんうん、 と頷いている三人組に俺は告げる。
食事が運ばれてきた時点で議論は終わったと俺は思っていた。
だがこの三人組にとって、 そうは問屋が卸さないらしい。


「いや、 やっぱり賭けよう。 アーサーがMariaと3分以上話せるかどうか!!」
「無理」
「絶対理論的に見て不可能だと思います」
「・・・・・・・・・・・・・」


 机に突っ伏したい所だが、 必死にそれを腕で堪えさせる。
今突っ伏したら俺の顔全体がソース味になってしまう・・・・・・


「・・・・・・好きにしてろ・・・・・・」


 そう呟き、 自分の昼食を食べ始める。
・・・・・・今日の食事は味があまりしないな・・・・・・・
俺が食事をしている真横で、 奴等はまだ話で盛り上がっていた。
そしていつの間にか握られているビールジョッキとワイングラスに、
俺は呆れる前にある意味尊敬した。
俺に気づかれずに何時の間に・・・・・・・そこまでして酒が飲みたいのか・・・・・・と。



 結局、 店を出たのは夕日が傾きかかっている時間であった。
ついでにあの三人はまだ飲んでいる。
アーサーのヘタレー・・・・・・・とかなり出来上がっているようだった。
そのまま寝坊でもしてくれれば、 少なくともヴィスベルには仕返しが出来る。
しかしシュルツやバステッド、 ヴィスベルも良く昼間から飲み続けていられる・・・・・・


「・・・・・・夕食はいらないな」


 何時もこういう訳じゃないが、 偶にはこういう日もいいと思う。
この平和をかみ締めて、 楽しめる毎日だから・・・・・・


つづく