第三章 『退路無き戦い』 後編

 第二中隊は城の中核とも言える謁見の間を制圧した。
一階部分ではまだ激しい戦いが繰り広げられているが、 二階部分の安全を確保した事によって、
応急処置であるが怪我の治療も出来る事になった。


「一階はまだ制圧できないか」
「もうそろそろ完了するはずです」
「入り口と階段は確保しました。 これで敵は城外に出れないはずです」
「応急処置の済んだ者は一階の援護へ向かってくれ!」


 指示を出す声が飛び交い、 その指示に従って隊員達が走っている。
城外に出られない様、 入り口を塞ぎながら彼等は奥へ奥へと戦い続けていた。


「隊長、 地下への通路が見つかりました!」
「何・・・・・・くそっ、 そこが何処に続くか分かるか?」
「分かりません、 ただその場からかなりの瘴気を感じるとの事です」
「第一小隊と第三小隊を行かせる、 のこりの第二小隊で一階の敵を完全的に掃討せよ」
「はっ!」


 グラストヘイム城地下には、 地下監獄が広がっていました・・・・・・・
この場で何が行われていたのか・・・・・・私には想像したくありませんでした。


「第一小隊は右、 第三は左だ」
「了解した」
「嫌な空気だな・・・・・・」


 その呟きに私は頷いた。
何なのだろう・・・・・・この様に隠された場所に牢獄があるなんて。
嫌な予感というのでしょうか・・・・・・この風は感じた事のある事でした。
プロンテラが魔族に襲われたあの時・・・・・・


「うわっ・・・・・・これは・・・・・・」
「見るな!」


 先だって歩いていた騎士の方達から声が掛けられましたが、 私は見えてしまった。
中央に備えられた大きなギロチンと、 その刃にこびり付く赤褐色のしみが・・・・・・
それが何を意味しているのかを理解した途端、 私は猛烈な気持ち悪さに襲われました。


「しっかりしろ・・・・・・敵か!」
「ゾンビの大群だ」
「この方達・・・・・・犠牲者なんですよね」


 その言葉が私の口からいつの間にか零れていました。
彼らの口から流れてくる言葉が、 全て苦しみにまみれた呪詛・・・・・・
彼らをもう助けてあげる事は出来ません。
ならばせめて、 安らかに眠らせてあげる事が私達に出来る唯一の事でしょう。


「参ります・・・・・・!!」
「行くぞ!!」


 監獄での戦いは騎士団が有利だった。
何の理性も無くただ生きる者を恨み、 その恨みだけで向かってくるゾンビ達に作戦も何も無い。
向かい来るゾンビを打ち払い、 数だけが有利な闇の軍勢を突き破っていく。
だが、 数が多いために傷つく者も多い。
一人一人の傷を癒すプリーストの疲労もその分蓄積されていった。


「ハスカ、 平気か?」
「・・・・・・はい、 まだ平気です・・・・・・」


 実を言いますと全然大丈夫ではありませんでした。
精神的にも、 肉体的にも私は限界だったのかも知れません。
限界だと訴える体を強引に気で押し切る。
そうしないと倒れてしまいそうでしたから・・・・・・


「・・・・・・限界だな、 無理も無い。 教会でしか勤務した事が無いのだからな・・・・・・」
「はい、 私達はある程度騎士団の方々と訓練を受けていますが・・・・・・ハスカはまだ訓練不足でして」
「魔法に関する知識は多いですが、 まだキャパシティが追いついていません」
「い、 いえ!! 私はまだ・・・・・・」


必要以上の声で言い返す。
そうしなければ隊長達に命令されてしまいそうだから・・・・・・


「時間もそろそろだな、 この機会に・・・・・・」
「それが懸命だと思います」
「そうだな・・・・・・ハスカ・ミスティ・ローレック」
「嫌です!」


 私は隊長の言葉を聞かずに拒否する。
それ先に言われる事が分かっていたから・・・・・・


「命令する、 これより後退して後方の第三中隊と合流しプロンテラに撤退せよ」
「嫌です!! 隊長達と最後まて戦います!」
「ハスカ、 これは命令だ!」
「嫌です! もう誰かを見捨てたくはありません!!!」


 脳裏に甦るのは司祭様の姿。
何も出来なかった私がとても恨めしくなっていた。
あの時咄嗟に治療が出来れば・・・・・・
そして今、 私の目の前で助けられるかも知れない人達が居る。
その人達を見捨てて・・・・・・犠牲にしてまで生き延びたくは無かったのです。


「私は・・・・・・私はもう誰かを犠牲にしてまで生きては・・・・・・」
「・・・・・・すまない、 時間が無いんだ」
「アグッ!」


 一瞬のうちに間合いを詰められ、 腹部に重い痛みを感じた時、
私の意識は少しずつ闇に落ちていきました。


「隊・・・・・・ちょぅ・・・・・・」
「・・・・・・・すまん、 アシュレイ ルーンベルグ
「はっ!」
「彼女を護衛して後退しろ」
「分かりました・・・・・・しかし、 怨まれますよ?」
「ふっ・・・・・・それで命が救われるのならいくらでも呪われてやるさ」
「・・・・・・貴方らしい、 ご武運を!」
「アシュレイ、 後の世を頼むぞ!! 我々が作ってやるんだ。 無駄にしたら承知しないからな!!」


 ペコペコにハスカを抱えながら乗る。
振り向き様に隊長が掲げている剣に自分の剣を打ち付ける。
それが彼との約束の印、 自分への誓い。


「はい、 貴方方の意思・・・・・・しっかりと受け継ぎます」
「・・・・・・・よし、 なら行け!!」


 ダッ、 と後ろを振り返らず走り出す。
未来を託された自分にもう振り返る事は許されない。
彼らが出来なかった事を成しえる為に・・・・・・


ラグナロクオンライン 第一部『甦る悪夢』編

終章 『結界』 に続く