第三章 『退路無き戦い』

 峠での戦いは人間側が勝利を収めた。
しかし、 それは敵を退けるという初期目的を達成しただけであった。
プロンテラ城下町南側より攻められた事を知った兵達が混乱し、
その隙を見逃さず魔族は総攻撃を仕掛けてきたのだった。
魔族を撤退させる事に成功したとは言え、 損害は大きすぎた。
次の攻撃があった場合・・・・・・プロンテラを守り切れる確率はあまりにも低かった。


「・・・・・・グラストヘイムを攻撃して敵の本拠地を陥落させるしか・・・・・・」
「しかしその間、 首都は無防備となります!! それでは我々の帰るべき場所も・・・・・・」
「帰るべき場所が守れない現状では、 攻撃しかありません!」
「そんな無謀な作戦が許可出来るか! 第一兵達になんと伝えればいいんだ!!」


 プロンテラ中央では会議が紛糾していた。
攻撃を主張する攻撃派と、 あくまで防備に徹する防御派が中央に国王を挟み言い合っていた。


「国王陛下、 ゲフェン都市の長から報告があると・・・・・・」
「・・・・・・分かった、 ここに通してくれ」
「はっ!」


 近衛兵が扉を開き、 ゲフェン都市の長が歩み進む。
疲労が顔全体に色濃く出て、 杖なくしては歩けないかもしれない。


「トリスタン一世殿、 完成しました。 我々が総力を結集して闇の住人を抑える結界を編み出しました・・・・・・」
「結界・・・・・・つまり、 グラストヘイム城に魔族を封印する・・・・・・という事かね?」
「その通りです。 グラストヘイム付近で魔術師達による詠唱を開始。
その結界が完成すれば、 闇の住人達をグラストヘイム城に隔離できます・・・・・・
しかし、 まだ試作段階で不安定要素は多いです・・・・・・しかし、 これ以外我々の生き延びる策は無いと思われます」
「・・・・・・・・・・・・」


 それはつまり、 敵の本拠地を隔離、 こちらの世界への侵入を遮断するものだ。
しかしその結界を構成するには何人もの魔術師と・・・・・・時間が必要だった。


「・・・・・・分かりました。 老師殿、 その作戦を採用させて頂きます。
後は我々に任せて、 いまはお休みください」
「ホッホッホッ・・・・・・・すみません・・・・・・・後をお願いします」


そういい残すと老師は崩れ落ち、 眠りについてしまった。
慌てて衛兵が駆け寄り、 彼の体を丁重に客間へと運んだ。


「・・・・・・・諸君、 我々が生き延びるためには老師が提案された作戦しかあるまい。
だが兵士達を死地に赴かせるわけにもいかん。 我々が作戦をしっかり立てなければ死ぬのは兵達と心得よ。
我々の力を結集し、 この難題を乗り切るためにも全力を尽くそうではないか!!」
『はっ!! 国王陛下!!!』
「昼夜を問うてはいられない! 即座に作戦を立案し行動を開始しなければならない!
我等に残された時間は少ないのだからな・・・・・・」
 

 その日から、 プロンテラ会議室で灯りが消える事は無かった。
その努力の賜物か、 たった3日で作戦が完成した。


「作戦の開始は明朝、 午前3時とする。 それまで各部隊はゆっくりと休んで頂きたい・・・・・・以上」


 決死の戦いが、 間近に迫っていた・・・・・・


続く