第二章 『プロンテラ攻防戦』 後編

 ドォ・・・・・・ン
と、 遠くで何かが崩れる音。
その数秒後に地鳴りが続きました。


「な、 なんですか!? 今の!!」
「・・・・・・!! 貴方は中に! 外を見てきます!」
「あ、 ハスカさん!!」


 アコライトの子の静止も聞かずに、 私は大聖堂から飛び出しました。
すると、 南方面から黒煙が上がっていました・・・・・・


「南に敵が・・・・・・っ!! もうここまで!」


 咄嗟にニューマを唱えていなければ、 私は矢に突き刺されていたところでした。
レイドリックが弓を持った『レイドリックアーチャー』
遠距離物理攻撃を遮断する魔法『ニューマ』


敵は・・・・・・3体。
私にも戦える!!


「聖なる光よ、 我が前に立ちふさがる邪悪なる者に裁きの光を・・・・・・ホーリーライト!!」


 聖なる光により、 敵にダメージを与える技『ホーリーライト』
マグヌスエクソシズムと呼ばれる対魔族専用殲滅魔法もあるのですが、
私は極支援型と言われる、 文字通り誰かと共に戦う技を覚えるのに磁力していた為、 殲滅魔法は覚えていないのでした。
でも・・・・・・戦わなければいけませんでした。


「これ以上は・・・・・・進ませません!!」
《無駄ナ足掻キヲ・・・・・・レイドリックヲ前ニ、 殺セ》


 ニューマを張っている為、 弓での攻撃は無駄と悟ったのだろう。
レイドリックアーチャーが射撃を止め、 その後方からレイドリックが走りこんでくる。


 魔族には高度に知恵を持つ種類もいる・・・・・・
そう書物で読んだ事はありましたが、 統率まで取れるなんて・・・・・・


「うっ・・・・・・」
《死ヲ 殺戮ヲ 恐怖スル者スラ居ナイ静寂ナ世界ヲ・・・・・・・》


 レイドリックに対して私が出来る事等無い。
ニューマは、 遠距離攻撃を無効化するだけで接近してきた敵には何の効果も無い。


「下がって!!」


 私が成す術もなく呆然としていた私の耳に届いた言葉に、 私の体は咄嗟に動いた。
地をけり後ろに跳び退ると私の前に割り込む影。


「支援を! レイドリックは私が抑えるからアーチャーはお願いしました!!」
「わ、 分かりました!」


 咄嗟に出された指令に戸惑うが、 そんな時間は私に容易されていない。


「ブレッシング!! 速度上昇!! イムポシティオヌマス!! キリエエレイソン!!」


 身体能力を一時的に上昇させる魔法『ブレッシング』
文字通り自分の速度を上げる魔法『速度上昇』
天使の加護により攻撃力があがる魔法『イムポシティオヌマス』
神々の力を借り、 自分との間に一定のバリアを築く魔法『キリエエレイソン』
全て神の加護を受けたプリーストだから出来る奇跡。



「これで・・・・・・最後!!」


 そう言い放ち剣を叩きつける。
レイドリックは邪悪な魂を打ち砕かれ、 その場で崩れ落ちる、 ただの鎧へと戻ったからだ。


「・・・・・・ありがとうございました。 とても一人では戦えませんでした」
「いえ・・・・・・すみませんが私はこれで」
「えっ・・・・・・あ、 待って・・・・・・」


 そういい残し、 またその子は走り出してしまいました。
私は追いかけようと歩を進めようとして・・・・・・


「大聖堂が・・・・・・!!」


 背にして戦っていた大聖堂、 その一角が大きく崩されていました。
その付近に深遠の騎士の屍骸が散乱していた事から、 破壊したのがその魔族だと言う事は容易に知れました。



「司祭様!!」


 大聖堂内部に入った私の目の前に、 赤い液体の海が広がっていました。
その中央に何時も優しく笑みを浮かべていた司祭様が倒れて・・・・・・


「司祭様! しっかりして下さい!! い、 今治療を・・・・・・」
「・・・・・・ロー・・・・・・は・・・・・・もぅ・・・・・・召され・・・・・・」
「何を弱気な事を! 大丈夫です!! 私が治します!」


 司祭様が弱弱しく手を私の頬へと持ち上げてくる。
その手をしっかりと握り締める。
私の目は真実を脳へと伝えてくる、 もう・・・・・・助からないと・・・・・・
けど私の心はそれを頑なに理解したくありません、 そして傷の手当へと移ろうとした時・・・・・・


「・・・・・・ハスカ・・・・・・すま・・・・・・ない・・・・・・」


 フッ・・・・・・と司祭様の手から力が抜け落ちました。
最後に私に謝り、 何の罪も無いのに謝って・・・・・・
謝らなければいけないのは・・・・・・私なのに・・・・・・


「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」


 その後、 私は大聖堂の地下倉庫に隠れていたアコライトの子を見つけました。
彼もまた、 司祭様に助けられたみたいです・・・・・・
私は彼に手伝ってもらい、 血だらけの衣装を着替えさせ大聖堂裏の墓地にへと埋葬しました。
司祭様の居なくなった大聖堂を、 しっかりと守る事を決意して・・・・・・



「貴方の魂が神の元に召されますように・・・・・・神の下に生きた彼の・・・・・・
彼の・・・・・・魂が・・・・・・・迷いませんように・・・・・・加護があらん事を・・・・・・・い・・・・・・のります」


 埋葬した後、 アコライトの子と二人だけの祈りを捧げました。
私の最初で最後の・・・・・・お世話になった司祭様への恩返し・・・・・・・
思えば迷惑ばかりかけて来ました・・・・・・
もう二度とお礼が出来ないなんて・・・・・・
潤んだ両目から、 一つ・・・・・・・また一つと涙が聖書に落ちていく。


 聖書を何とか閉じ、 その場に倒れる様に座り泣き崩れました・・・・・・
悲しんでいる時間など無いのかもしれません。
でも・・・・・・今だけは・・・・・・
あの優しかった司祭様を思って泣いても・・・・・・許してくれますよね・・・・・・?


ラグナロクオンライン 第一部『甦る悪夢』編

第三章 『退路無き戦い』 に続く