第二章 『プロンテラ攻防戦』

ゲフェン魔法都市が陥落してから数日。
ゲフェン方面を監視していた部隊から緊急報告が舞い込んだ。


『闇の軍勢、 進軍を開始す』


 トリスタン一世は即座に対応した。
まずプロンテラ市街で戦う事は、 すなわち住民の生命を危険にさらす。
闇の軍勢を迎え撃つ場所を峠(現在のロッカー峠)とし、 プロンテラ騎士団を主力とした部隊を展開を指示。
峠中央の台地に布陣し、 地形的に有利な展開となった。
一方闇の軍勢はゲフェンを出陣し、 真っ直ぐにプロンテラを目指し進軍。
数日後、 両軍は対峙した。



「ハスカ・ミスティ・ローレック」
「はい、 何か御用でしょうか? 司祭様」
「君は待機命令を受けているはずだが・・・・・・何処へ行くつもりだね?」


 プロンテラ大聖堂内部、 中央礼拝場で私は呼び止められました。
私はまだプリーストとしての経験不足を理由に、 今回の戦いの出陣命令は出ずに待機命令が出ていました。
でも・・・・・・私の心はそれをよしと出来なかったのです。
戦って傷ついている人達が居るのに、 私は安全な場所で見ているしか出来ない・・・・・・
そんな事は私は嫌だったのです。


「司祭様、 私とて聖職者の端くれ・・・・・・戦いに赴く方達に祝福を授ける義務があると思います」
「それでそのまま戦いに身を投じるのかね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「君達には君達の任務があるだろう。 悔しい気持ちは私にも良く分かる。
だが、 それで単独行動を起こして良いと言う訳ではない。 辛いだろうが今は耐えなさい」
「しかし・・・・・・いえ、 申し訳ありませんでした。 司祭様・・・・・・私の我侭であり軽率でありました」


 彼女は聡明だった。
そこで自分が我侭を押し通せば、 自分の様に悔しい思いをしているプリースト達が揃って出陣の許可を求めるだろう。
そんな事になれば大聖堂内部は混乱する。
戦いを前にして、 内部の混乱は避けた方が良い・・・・・・と判断したのだ。


(一時の感情だけで動こうとするなんて・・・・・・私もまだまだよね・・・・・・・)



「ハスカ、 君は医療器具、 医薬品の準備をしておきなさい。
もし戦いが激すれば負傷者もここに搬送されるだろう・・・・・・その為の用心をしておきなさい」
「分かりました。 早速行います」


 そう司祭に告げ、 彼女は足早に大聖堂の奥にある倉庫へと向かった。
途中会ったアコライト達にも手伝いをしてもらい、
中央礼拝場は何時でも応急手当ての出来る状態にした。


 この時はまだ、 プロンテラに張り詰める空気は漂っていたが、 戦火は届いていなかった・・・・・・



続く