第一章 魔法都市ゲフェン 陥落 中編

 プロンテラで対策会議が始まろうとしている頃、 魔法都市ゲフェンは混乱しつつあった。
突然の侵攻、 それも人間ではなく闇の軍勢が・・・・・・だからだ。


「住民の避難は完了したか?」
「無理です、 とてもではありませんが間に合いません!!」
「警備隊が総出で避難誘導していますが・・・・・・プロンテラまでの道のりは長すぎます。
ワープポータルさえ使えれば・・・・・・」


 ワープポータル、 空間転移魔法。
魔術によって指定範囲の上に乗った者をして居場所へと移動できる魔法であるが、
魔術による通信が妨害されてから、 ワープポータルも妨害され、 ゲートが開けなくなっていた。


「むぅ・・・・・・とにかく急がなくては・・・・・・我々に残された時間は少ない」
「老師! 偵察隊より報告!! 闇の軍勢グラストヘイム方面より接近!!
数は数え切れませんとの事!!」
「もう来たのか!! だが住人がまだ・・・・・・」
「老師、 プロンテラより派遣されています騎士隊長が早急にご面会したいとの事ですが・・・・・・」
「構わん、 通せ」
「はっ!」


 プロンテラ騎士隊、 各諸都市防衛の為にプロンテラから選出された騎士および剣士達であり、
急務の時は各自の判断で行動していいとの許可も貰っている部隊である。
任務は主に諸都市警備隊で手に負えない事件の解決、
及び諸都市の長からの要請に応じ行動する事である。


「ご面会に応じていただき感謝致します。 無礼ですが用件のみをお伝えさせていただきます」


 騎士隊長は片膝を床につき、 右手を胸に、 左手を床につける騎士の儀礼を行う。


「構わない、 して要件とは?」
「我々が闇の軍勢を抑えます。 その間に住民の避難を完了させて下さい。
その後、 ゲフェンで戦うなり、 プロンテラまで退却するなりの行動を致しましょう」
「なっ・・・・・・!!?」
「そんな・・・・・・それでは貴官達が・・・・・・」


 騎士隊長の言っている事、 それはすなわち
『自分達が時間を稼ぐから、 その間に民間人を逃がしてください』
との事だった。


「しかしそれでは・・・・・・貴官達が」
「構いません、 それが我等騎士の役目でございます」


 騎士隊長のが顔を上げた時、 老師と目が合った。
老師はその一瞬で彼の意思を汲み取った。
あまりにも悲壮な覚悟だった・・・・・・


「・・・・・・分かった、 許可しよう」
「ありがとうございます」
「君達の勇気ある行動は決して忘れんぞ・・・・・・」


 そう老師が告げると、 立ち上がった彼は笑った。


「老師様、 それでは我々が死ぬと確定しているようなものではありませんか。
我々は死にません。 また貴方様の身辺の警護をさせて頂きます・・・・・・むさ苦しくて申し訳ありません」
「ホッホッホッ・・・・・・貴官達なら何時でも歓迎だ・・・・・・帰ってきなさい。 それが命令だ」
「はっ・・・・・・それでは、 失礼致しました」


 そういい残し、 騎士隊長は部屋から退出していった。
老師のと対話を聞いていた魔術師達の顔には、 悲しみと戸惑いの表情が現れていた。


「老師・・・・・・彼らは」
「馬鹿者! 人の心配をしている暇があれば住民を一刻も早く避難させよ!!
彼らの決意を無駄にするな!!」
「は、 はっ!!」


 慌てて部屋より飛び出していく魔術師達。
その喧騒が消え去り、 部屋にただ一人、 老師だけ残った。


「・・・・・・すまん、 本来ならワシから黄泉の国へと旅立たなければならないのにな・・・・・」


 最後に笑った彼の顔を、 老師は二度と忘れないだろう。
あの清々しい、 命を顧みないで誰かを護る事を決意した彼の顔を・・・・・・


続く