第一章 魔法都市ゲフェン 陥落

神々と人間、 悪魔達の戦いは熾烈を極めた。
辛うじて神々は悪魔達との戦いに勝利し、 悪魔達を闇の世界へと封印する事に成功した。
しかし、 神々の受けたダメージは深刻だった。
後の世で魔物達が復活した時の事を案じ、 彼らは自分達の力の一部を武具にして残す事にした。
その製造技術は、 人間達も神より伝えられたのだが、人々は傷ついた世界の復興に励むうちに、
日々の忙しさに追われ、 次第に神々の武具を作る技術を失っていった・・・・・・




その日、 トリスタン一世はなんとも言えない胸騒ぎが起きてから続いていた。
近頃政務が厳しいのだと、 秘書官は訴えたがそうではないとトリスタンは分かっていた。


「陛下、 魔法都市ゲフェンより通信であります」
「ゲフェンから?」


 この時代の通信とは、 水晶玉を媒体として自分の姿と声を送るといったものであった。
ただしこの魔法には大量の魔術がか必要であり、
水晶玉がある一定の大きさでなければいけないという移動式ではない為、
この様に城、 又は大きな町の中心でもなければ置いていないものだった。


「分かった、 直ぐに行こう」


 城の一室にある通信部屋には魔術師が詠唱を続けていた。
これが普及しない原因でもあって、 常に魔術師が一人付いていなければならないからだ。


『トリスタン一世殿、 お久しぶりですな』
「お久しぶりです、 老師。 先月の会議以来ですかな」
『そうですな、 しかし今はその様な話をしている間ではありません・・・・・・
貴方様もお気づきでしょうが、 世界の何かが変わりつつあります。
我々はその原因がグラストヘイムにあると予想していました』
「グラストヘイム・・・・・・野心が大きい彼ですな、 何か良からぬ事をせねば良いが・・・・・・」


 不安そうに告げるトリスタンに対し、 老師は真剣な瞳で続けた。


『トリスタン殿、 最早手遅れです。 グラストヘイムより今朝程何人もの兵と使用人が逃れてまいりました。
彼らの話によると、 グラストヘイム王は魔術者を使い魔物を呼び寄せてしまった模様です』
「馬鹿な!? 何と愚かな事を・・・・・・・グラストヘイムは?」
『魔物によって占拠された模様です。 奴等の目的は恐らく・・・・・・で・・・・・・』
「老師殿!? いかがなされたか!」


 突然正面に移されていた老師の姿が写りづらくなっていく。
声も途切れ途切れになり、 何かの妨害を受けているのは明白だった。

『くっ・・・・・・まさ・・・・・とは・・・・・・スタン殿・・・・・・急ぎ体制を整・・・・・・』


 ブツ、 と映像が切れる音が部屋に木霊した。
専属の魔術師が何とか通信を回復させようと努力しているが、 映像が回復する兆しすら見えない。


「衛兵! 至急騎士団長を集合させよ!! それにプロンテラ防衛部隊の主たる人物もだ!!」
「はっ!!」


 トリスタンの対応は迅速であった。
ゲフェン都市の老師が伝えたかった事・・・・・・それはつまり、 敵がゲフェンに近づいている事と、
プロンテラ城下町に接近されるのも時間の問題だという事だ。


[老師・・・・・・ゲフェンの民達よ、 どうか無事に・・・・・・!!]



後編に続く