闇の軍勢 後編

 謁見の間から少し離れた一室に、 魔術師達は集まっていた。
その床には大きく魔方陣が描かれ、 中央の机には大きな水晶玉が設置されていた。
その場に集まっていた誰しもが、 グラストヘイム王の言葉を持っていた。


「みな、 今までの働きご苦労であった。 しかしその苦労も今日報われる!!」
『はっ!!』
「魔術師の諸君、 すまないが早速初めてくれたまえ」
『了解いたしました。 フフフフフッ・・・・・・・』


 何故か彼等はとても嬉しそうに魔法詠唱を始めた。
その時、 王は彼等の事必要とし、 また利用する為とはいえ厚遇した。
この事が彼らにはとても嬉しかった。
初めて自分達を必要とし、 そして自分達を異端児扱いせず、 普通に接してくれたのだからだ。


『闇より生まれし暗黒の者共よ
我願うは汝等の力我等の前に示し
我が呼び声に応じて我が前に現れよ!!』


 呪文が完成し、 部屋全体が眩い光に包まれる。
今まで感じた事の無い様な力が、 その場を包み込んだ・・・・・・


「・・・・・・んっ?」
大老師、 どうかなさいましたか?」
「いや・・・・・・何でもない」


 ゲフェンのとある一室、 この都市を統べる大魔術師は何とも言えない妙な胸騒ぎを感じた。
部下の手前、 何も無いと言ったのだが、 考えれば考えるほどその不安はまるで侵食するように心に広がっていく。
この胸騒ぎが、 現実の物とならぬ事を祈る事しか、 今の彼には出来なかった・・・・・・
 

「・・・・・・・むぅっ・・・・・・」
「陛下、 ご無事ですか?」
「うむ、 わしは平気じゃ」


 光の消えた後、 部屋に置かれていた家具は乱雑に散らばっていた。
倒れていた兵や魔術師も気がつき、 次々と起き上がっていくが魔物など何処にも見当たらない。


「魔術師、 よもや失敗したのではあるまいな?」
「いえ、 召還には得てして時間のかかるものでございます・・・・・・ご覧あれ」


 その魔術師が指差した方向を向くと、 魔方陣が不気味に紫色の光を発しながら不気味に輝いている。
その輝きが次第に早くなり、 連続的になりついに一点になったその時、


ピッ、 と一条の光が空を貫いた・・・・・・


 その光ははるか遠く、 異国であるアマツ、 コンロンですら確認されたと言われている。
そして、 その光を見た者の証言き必ず一致していた。


『なんて・・・・・・禍々しい光なんだ・・・・・・』と・・・・・・



 最初現れたのは腕なのだろうか?
あまりの大きさに自分の見ているものが何なのかほとんど理解できなかった。
大木の様な腕が魔方陣から天へと向かって突き出ている。
それが動き出した時、 周囲の兵達は咄嗟にその場から離れた。
腕が自分の体を引き出すように、 地面へとしっかりと手を付け力を込める。
するとどうだろうか?
人間の数倍は巨大であろう羊の魔物が見る見るうちにその姿を魔方陣から姿を現していく。


『・・・・・・うわぁっ・・・・・・』


 最初は召還に成功した喜びからか、 兵達も歓喜の表情で眺めていたのだが、
その巨大すぎる姿が現れていく内に次第に恐怖が芽生えてきていた。


「魔物よ! 我はグラストヘイム城が王である!! 我が願いを聞き届け、
プロンテラに・・・・・・」
『礼を言うぞ・・・・・・・愚かなる人間の王ヨ』
「何っ・・・・・わしは愚かでは・・・・・・」


 その王はその先をいう事は永遠に無かった。
後にバフォメットとして名を示す魔物が、 無造作に自分の持つクレセントサイダーを一閃させたのだ。
それを理解するのに、 周囲の兵は何秒も必要であった。


「へっ・・・・・・陛下!?」
「そんな・・・・・・どうして!!?」
『我は魔物でも上位に値するもの・・・・・・・人間如き言葉など聞き入れぬわ』
「ぐっ・・・・・・」
『さぁ・・・・・・もう一度世界を闇に染めようぞ? 我が仲間達よ』


 バフォメットの言葉に呼応するかのように、 魔方陣から次々と魔物達が沸きあがってきていた。
戦に不慣れな兵達が使用人達を守る為必死に抵抗するが、
相手は魔界という特殊環境ですら生きていける特異体である、 能力の差は歴然としていた。
グラストヘイム城が闇に墜ちるまで、 そう時間はかからなかった・・・・・・



ラグナロクオンライン 第一部『甦る悪夢』編
第一章 『魔法都市ゲフェン 陥落』 に続く