序章 闇の軍勢

 かつて世界を巻き込んだ大戦があった。
神々と人間対悪魔達の戦い・・・・・・
この大戦はどうして勃発したのか・・・・・・
それは、 歴史にも多々あるように愚かな権力を欲しがる王によって引き起こされた・・・・・・



 グラストヘイム城 謁見の間


その日、 グラストヘイム王は落ち着かない様子で地面を足でカツカツと叩いていた。
しかし側近の兵達もその様子を見て、 誰も何があったかを聞こうとはしない。
この城に勤務し、 住んでいる者ならその原因を知っているからだ。


(ようやくこの日が来た・・・・・・何と長かっただろうか)


 思い出せば本当に偶然であった。
城の地下へ、 万が一の為の脱出路を作成していた時、 偶然古い扉を発掘隊が発見したのだ。
発掘隊が開けようとしたが、 どうも強力な魔術で封印されているのか・・・・・・
何十人もの力に自信のある屈強な作業員がこじ開けようとしても開けられない。
この事を報告された彼は咄嗟に、 隣国である魔術都市『ゲフェン』に在住する有能な魔術師を呼び集めた。


 数日後、 魔術師達からなる調査団の報告が入った時、 彼は自分の目を疑った。


〔この扉に刻まれた文字は、 我々の使う魔術の元となっているかも知れません。
かなり高度な術式が施されており、 一日両日で開くような封印ではなく、
かなり重要な物が封印されていると判断いたします・・・・・・〕


 そう、 つまり最先端の魔術研究を行っているゲフェンに在住する魔術師ですら、
この城の地下から発掘された扉が何なのかがはっきりとしないのだ。


 グラストヘイム王はこの事を他言無用とし、
密かにゲフェンに居る[魔族]の召還を専門的に研究している魔術師を呼び寄せた。
彼ら魔術師にしてみればこれは救いの手だったのだ。
魔術の平和利用、 及び人々の生活の為になる事を研究するのがゲフェン魔術師協会の方針だったのだ。
過去、 それも神々と共に戦った相手である[魔族]を召還しようなどと考えている魔術師が、
異端として見られるのも仕方の無い事だった。


 彼らはグラストヘイム城にあるその扉が魔界に繋がっているのだと推測し、
こちらの世界で魔族をある一定数呼び出し、呼び出した魔族を利用し扉を開けさせる事が出来ると考えた。
無論この計画はグラストヘイム王に承認され、 彼らは城にて昼夜を厭わず研究を重ねた。
この時、 グラストヘイム王には野望が芽生えていた。
魔界の住人達を自分達の軍勢とし、トリスタン一世率いるプロンテラ王国に対し宣戦を布告するつもりだったのだ。


 暢気なトリスタン一世が統治するプロンテラに主導権を握られていた事が、
そのトリスタン一世の指示に大人しく従う事しか出来ない自分が、彼には気に入らなかったのだ。


 しかしそう思っていたのは彼だけであった。
他の近隣諸都市は、 トリスタン一世に対し好意的であった。
彼は搾取するでも無ければ独裁者として振舞うわけでもない。
冷静で沈着、 的確な指示を出す知能、 そして民に好かれる彼、
さらには諸都市の問題すらも自分の問題として取り上げ、 真剣に考える彼の姿に尊敬し敬愛していた。



「陛下、 ついに術式が完成いたしました!!」
「そうか! ようやく完成したか!!」


 謁見の間に現れた魔術師の報告に、 彼は心底嬉しそうな表情で答えた。
謁見の間を警護している兵達にも歓喜の表情がこぼれる。


「はい、 あとは陛下のご命令さえあれば何時でも召還出来ます!」
「そうか、 良し! 早速始めようじゃないか・・・・・・案内いたせ!!」
「ははっ!!」


 玉座から立ち上がり、 歩き始めた王を近衛兵が付き従う。
彼はこの時確かめるべきであった。


[魔族を召還して、 それの制御が可能なのかどうか?]


 しかし今の彼にはそんな事を考える余裕など無かった。
今や彼の脳裏を支配しているのは、 トリスタン一世に変わり自分がプロンテラ王国に君臨している姿だけだった。


 そして・・・・・・悲劇は幕を開ける・・・・・・


続く