受け継がれる思いがあるなら

 これは☆EINHERJAR☆に入る少し前、
私がギルドを飛び出して無所属の時でした。


「私と一緒に行きませんか?」


 そう声をかけた時、 そのアコライトの少年は間の抜けたような顔をしていました。
場所はプロンテラ、 東南の広場には臨時広場があります。
無数にあるチャットから、 何となく目に付いたチャットに声をかける事にしました。


『LV28 支援アコ 場所は相談でお願いします』


 私は暇になると時たまこうして臨時広場に現れ、 一次職の人と一緒に狩りに行きます。
勿論、 私には経験地は入りません。
昔プリーストの方が助けてくれたお礼として、
私も誰かの手助けをしたかったからなのかも知れません。


「えっ・・・・・・あの、 プリさんレベルは?」
「88、 極支援型です」
「あの、 組めないですしそれに見知らぬ人なのに・・・・・・」


 臨時はほとんど見知らぬ人と一緒に戦う事となります。
普通ならプリーストに支援して貰うなら、 バイトとして雇うしかありません。


「ええ、 承知していますよ。 ただ私がやりたいから・・・・・・
それだけでは理由になりませんか?」
「・・・・・・でも、 良いのですか?」
「はい、 構いません」


 少し躊躇いを含んだ瞳で見上げてくる少年に、 私は優しく微笑みました。
それに安心したのか、 彼の瞳から躊躇いと警戒の色は解けました。


「では、 天津に行きましょうか?」
「あ、はい。 宜しくお願いします!」
「こちらこそ、 宜しくお願いします」


 天津での戦いは、 一応彼はどうすれば良いか分かっている様で、
ニューマを張りながら銃奇兵に向かいヒールを唱えてゆきます。
私は彼の後ろに立ち、 彼の視界を奪わないよう注意しながら銃奇兵の気を引き、
なるべく彼に攻撃が行かないように留意します。
支援アコライトですが、 プリーストと比べるとレベルの差もありますが、
SPが低く、 直ぐにバテテしまいます。


「SPが少なくなってきたら遠慮なく座ってください」
「は、 はい!」
「大丈夫です、 座っている間は私が守ります」


 壁際で座っている彼を守るように前に立ちます。
座っている間に出現する銃奇兵は、 彼がある程度SPが回復するまで自分が受け持ちました。
受け持つと言っても、 ニューマとキリエエレイソンを唱え、
ブレッシングで相手の能力を低下させた後はひたすら待ち時間です。


「あの・・・・・・プリさんはいつもこういう事をしているのですか?」


 彼が座ってSPを回復している時、 今まで気になっていたのか、
思い切った様な声で聞いてきました。


「そうですね・・・・・・いえ、 私が思いついた時だけ・・・・・・ですね」
「思いついた時?」
「はい、 何となく人柄が良さそうかな・・・・・・とか、 何となく支援したいかな・・・・・・・
そう思ったときだけですね」
「・・・・・・あ、 あの・・・・・・それって選ばれたら幸運だった・・・・・・・という事でしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・」


 しばらく考え、 そして何事も無かったかのように話し出します。


「そうかも知れませんね」
「はぁ・・・・・・」
「でも、 私は何となく人を見分ける勘があるみたいです。
ですから、 私はこの勘で危険だ、 嫌だと感じた人は支援しません。
貴方と話した時、 そう言った嫌な感覚はありませんでした。
だからこうして全力で支させても貰っています」
「・・・・・・良く分かりません。 ただ、 プリさんなりに判断基準がある事は分かりました」
「そうですね、 貴方は何となく目に付いて、
話しかけたら人柄の良い人だったので支援しようと思っただけです。
優しい心を持っている人がプリーストになれれば、
また私みたいに支援してあげる事もあると思いますから。
私がしてもらった事を私がして、 また私がした事をその子が受け継いでくれれば、
その思いは途切れませんからね」
「・・・・・・・・・・・・」


 そこで話は打ち切られました。
支援は時間にして1時間程度、 私の決まりで1時間以上はあまりやらない事にしています。
集中力も落ちますし、 少し疲れてきますので。


「では、 これで失礼しますね」
「あ、 はい・・・・・・その、 ありがとうございました」
「いえ、 こちらこそありがとうございました。 貴方が優しいプリーストになる事を祈っていますよ」


 お辞儀する彼に、 励ましの言葉をかける。
彼がこの心を失わなければ、 きっと優しいプリーストになれるだろう。


「・・・・・・はい、 必ずなりますから・・・・・・
貴方みたいな優しいプリーストになって見せます!」
「・・・・・・そう、 ならこれをどうぞ」


 そう良いながら頭に被っていた看護帽を渡します。


「私がこの世界に来た時、 ギルドの方から頂いたものです。
私がまだ駆け出しのアコライトの時からずっと使っていました。
貴方が今決意した思いを忘れないように、 私がその思いを聞いた証拠として、 之を貴方に預けます」
「え・・・・・・・で、 でもそんな大切なものを・・・・・・・」
「何時か貴方がプリーストになって、 また私みたいにアコライトの子を支援してあげて、
貴方みたいに優しい心を持った子が居たら・・・・・・それを貴方はまた預けてください。
大切な思いを大事にするように、 忘れないように・・・・・・そう願いながら」
「・・・・・・はい、 分かりました」


 彼は受け取った看護帽を早速つけました。
彼の似合いますか? との問いに私はとても良く似合っています、 と答えました。


「それでは、 また何時かお会いしましょう」
「はい、 それまでお元気で!!」
「ええ、 また何時か・・・・・・」


 その後、 彼がどうなったのかは分かりません。
ただ、 私は今日も青空を見て確信している事があります。
彼は元気にやっているだろう、 看護帽に込めた思いを振り返りながら、
また今日という一日を走っていけるだろうと。


 そして何時か、 その思いを誰かに渡す時が来るだろうと・・・・・・